ひとと木材の物語
Vol.05池田木材

泣いて寝た木を生かす池田木材

池田木材(株)の池田社長を訪ねると、「今これから材を挽くから!」と案内された製材工場。

製材機の大きな長いの歯が残像を残して動いていた。
その機械に据えられた見た目幅50センチくらい、長さ3メートルはあると思われる材が据えられていた。

大きな機械で数ミリ単位の調整をする光景を何度も何度も見た。

寺社建築用材を主に扱う。

300年以上生きた大樹を製材し、さらに300年400年と生かす仕事だそうだ。
木は樹として生きた分、それ以上に建築用材として生きる。

 

良く知られているのは、伊勢神宮式年遷宮

 

20年に一度同じ形の社殿や神宝を作り替え、神様にお移りいただく伊勢神宮の大きなお祭りだ。

遷宮で使用されたご用材は、地震や自然災害などで被害を受けた全国神社に撤下されたり、移築されたりして活用される。
第61回式年遷宮後の古材は、全国百六十九社の神社に譲り渡された。
ご用材は、伊勢神宮のお社としての年月よりはるかに長い年月を新しい神社の一部として生きるのであろう。

式年遷宮では約1万本に近い檜が大量にご用材として伐採されるそうだ。

当初は宮川や五十鈴川上流の山から宮域材で調達していたのですが、枯渇しそののち熊野近隣の森林へ移り、木曽山は約300年前位から御杣山(神宮備林)としてご用材調達する。
近年執り行われた第62回遷宮より再び宮域材が使えるよになり、ご用材の約4分1は宮域材が使われた。
今後は檜の代替材としてヒノキアスナロも用いられたりするとの事。

大正12年頃から二百年計画で檜造林事業を進め宮域材がようやく育ち、それまでを熊野の山と木曽の山が支えたと言っても過言ではない。

そうは言っても、御神木となる直径1メートル余り、樹齢400年以上の巨木は、木曽の山からしか伐り出す事が出来ず、御杣始祭が執り行われた。

※御杣始祭とは、二十年に一度の伊勢神宮遷宮の時、木曽で始めに行われる内宮外宮の御神体になる木を切り倒す祭りだ。

 

 

泣いて寝る木

皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)のご神体をお祭りする箱となる御樋代木という2本のご神木を、古式にのっとり斧だけを使った三ツ紐切り(三ツ緒切り)という方法で奉伐。

 

 
芯の近くに斧が入っていると、辺り一面に檜の芳香が漂って、最後の斧が入ると、木は逝く命を惜しむがごとく「ぎぃ~」という声を出し、泣いて寝る。
全長35m、重さ5tを超える御神木に、最後の斧が入り、泣いて寝て逝く。

亡き会長が伊勢神宮評議員で御杣始祭、奉賛会会長をしていたおかげで運よくその場に立ち合わせることができたと言う。
杣(木こり)衆が言っていた”木が泣く”ということを池田社長はこの時、実感したと話す。

 

 

そして、誓いと祈りの株祭り

 

伐採の終わった直後の御神木の先端のこずえを、その根株に差し、「このこずえと根株の間の幹を、大切に使わせていただきます。」と誓い、「この根株に種が落ち、新しい命が宿り、芽が出て生長し、やがて大樹になりますように。」と祈る。
奉伐後の大切な行事、株祭り。

 

三百年を超える気が遠くなるような歳月。

式年遷宮の始まりの祭を行える、木曽檜天然木についても池田社長は語ってくれた。

 

 

御嶽山の山嶺の厳しい大自然の中、風雪に耐えぬく木曽檜

 

幼樹のまだ樹齢10~30年くらいの幹は、直径6cm前後で枝ぶりによっては冬の雪の重みでしなり寝てしまうとの事。
雪が溶けだす頃より、春から秋にかけて必死に起き上がるそう。
毎年、いろいろな方向に寝ては起きてを繰り返しながら成長する。
直すぐな木は極希で、龍が天に登るように微妙に曲りながら成長する。
起き上がれなかった幼樹は朽ちて土へと帰るという厳しい環境の中で育つ。
そして、長い耐用年数と高い耐久性のある良材となる。

下から大径木を見上げると3次元で曲がっている。
伝統木構造による日本の寺社建築は曲り材を多様し必要する。
他の檜の産地(吉野、東濃、飯能、土佐等)では幼木のうちに切られてしまし確保が難しい。
しかし、多様な檜の産地である木曽では確保が出来るとの事。

 

 

樹は動かないと思うが木は動く

 

丸太を製材にかけると、先の話に出た龍が動くのだと言う。

製材機に乗ってまだ数年の頃、勢いで機械にかけたところ、木の曲りが邪魔をし締め付けられ機械の歯を挟んで動かなくしてしまった事があるそうだ。
締め付けが強く、機械歯はそうなってしまうと上にも下にも挽く事出来ず、歯が曲り折れ使えなくなってしまったとのこと。
曲がり材を必要とし多様する寺社用材を作る難しさを肌で感じた時だったそうだ。

製材された製品は自然乾燥にこだわる。
そうする事により、そり、曲り、割れ等のくるいの少ない材が生まれ、気品のある色あいと光沢は他の樹種、どの桧の追随をも許さない。

 

最後の斧が入って檜の大木が倒れこんで行く時の”ギィー”という逝くが命を惜しむかのごとくの声、今でも耳に残り”木は生きてるのだ”という思いが胸の中に深く刻まれていると池田社長は言う。

木が泣く、木が寝る
木に大切に使わせていただきますと誓い、木に感謝し新たな芽の成長を祈る。
木は動く、そして形を変えて生きる

 

池田木材株式会社

長野県木曽郡上松町正島1-8

Tel.0264-52-2133 / Fax.0264-52-4823